PERFECT DAYS を観て
最近、心に残った映画に『PERFECT DAYS』というものがある。 主人公は平山。役所広司が演じている。無口な男で、ほとんどセリフがない。派手な演出もない。 観客は映画が進むとともに、(自分の心を重ねながら)平山の心の動きをたどるようになる。 お昼は神社の境内にあるベンチに座り、コンビニで買ったサンドイッチを食べながら鎮守の森を眺めている。木漏れ日が好きなのか、それを旧型のフィルムカメラで写していた。仕事が終わると自転車に乗って銭湯に行き、汗と汚れを落としさっぱりとした気分になり、帰りに行きつけの飲み屋で酎ハイ(ハイボール?)とおかずを食べる。 アパートに帰ると、布団に寝ころびながら、小さな電灯の下で古本屋で買った文庫本を読む。 そんな生活の中で遭遇する小さな出来事や心の動きを描いている。 平山さんの趣味・コレクションは、オールドミュージックのカセットテープを集めること。神社の森で萌芽していた小さな木の芽(苗木)を拾ってきて、ポットで育てること(盆栽みたいに)。フィルムカメラで木漏れ日を撮影すること。心象を写し撮ろうとしているのだろう。そして、古本屋で買った文庫本を読むこと。 小出しにそのコレクションがあらわにされるのだが、カセットと本と写真、かなりの量だ。年月を感じさせる。
古本屋で購入し、読んでいたのは、幸田文(幸田露伴の娘)の『木』。自然の描写、木の描写がとても心象的で人と木の心のつながりが描かれているようだ。哲学的でさえある。(学術的に木を紹介する本は多くあるが、心で樹木をとらえた本は少ない)私も愛読していて、奇遇にもちょうど手元にあったのでびっくりした。 私は、この映画のサウンドトラックCDを買おうと思って探したがなかった。 温か味のある映画である。 人の幸せとは、なにもお金があって派手な(贅沢な)生活をすることだけでなく、こういうところにもあるんだということを教えられる作品だった。 一方、あまりにも清貧が美化されているということで批判を受けたりもしている。 あまり深入りして、露骨にドラマ化していないところもいい。余白を残しているのだ。
それにしても平山さんは見事な仕事っぷりだった。 トイレ掃除がもっと誇らしい、立派な仕事だと思われるようになってほしいものだ。
映画の製作や背景について、 後で気になって調べてみたところ、この映画は日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」がベースになっていて、そのプロジェクトを主導したのは柳井康治、ユニクロ(ファーストリテイリング)の社長であるとのこと。監督はヴィム・ヴェンダース。 ロードムービーを得意とするヴェンダース畢生の傑作だと評されている。 福祉の向上を目指す「日本財団」の目の付け所もよかったし、あの億万長者のユニクロの社長が描き出す世界がこういうところにあるのかということも驚きであった。柳井さんの人柄がうかがえる作品でもある。 キャストの中では特に、セリフが少ない中、表情やしぐさ、心の動きによって、テーマになっている「心の平安」(PERFECT DAYS)を表現する。役所さんの演技は素晴らしかった。 小さな出来事を丁寧に描写することにより、主人公の心が求めているもの、その平安がどこにあるのかが垣間見られる。自然を愛し、心の平和を愛し、日常を大切にする。監督やプロジェクトメンバーの思い(スタンス)が伝わってくる映画だった。 派手な演出を行う以上に、無言の心の描写のほうが、意図する世界観を強く表出しているように感じられる。 2025.11.11
「THE TOKYO TOILET」は、日本財団が実施していた、東京都渋谷区内に公共トイレを設置するプロジェクト。「TTTプロジェクト」とも呼ばれる。 日本の公共トイレの多くが「汚い、臭い、暗い、怖い」として利用者が限られている状況を鑑み、性別、年齢、障がいを問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを作ることを目指して日本財団から渋谷区に構想を持ち掛けた。そして区内17か所に順次設置が行われた。トイレの設計施工には大和ハウス工業が、トイレの現状調査や設置機器の提案にはTOTOが協力し、事業費用は21億円で、財団と発案者の柳井康治(ファーストリテイリング取締役)が出資した。 どうりで最新型のお洒落なトイレが多いなと思ったわけだ。
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